5'-TTAGGG-3'

Suis-je ce que mon passé a fait de moi ?

Ch.18 : Cell Death

 

Molecular Biology of the Cell

Molecular Biology of the Cell

  • 作者: Bruce Alberts,Alexander Johnson,Julian Lewis,David Morgan,Martin Raff,Keith Roberts,Peter Walter
  • 出版社/メーカー: Garland Science
  • 発売日: 2014/11/20
  • メディア: Kindle
  • この商品を含むブログを見る
 

 

学部二年生の全過程が終了し春休みに突入しました. まとまった時間が取れそうなので買ったまま埃をかぶっていたMBoC6thを読むことにします. ただ読むだけじゃ面白くないので, 参考論文まで含めていろいろと読んでこのブログにまとめてみようと思いました. というわけでつい最近講義で扱ったApoptosisの章から読み始めます. ちなみにTwitterでは #MBoC6th一人読書会 というハッシュタグをつけて読んでいる過程を垂れ流しているので, もしも同調して読んでみようという方がいましたらこのハッシュタグを積極的に使っていただけると幸いです. 以下ひたすら淡々と.

 

<keywords>

Apoptosis, caspases, extrinsic/intrinsic pathway

 

Apoptosisとは, 細胞膜や細胞小器官などが正常な形態を保ちつつも, 核内のクロマチンが凝縮して細胞全体が萎縮し断片化してApoptosis body (アポトーシス小体) を形成し, 細胞死に至る現象であり, 端的にいうと"細胞の自殺"です. Apoptosisという単語はギシリャ語の"falling off"を意味する単語が由来らしいです. これに対して, 外傷などにより細胞が死ぬことをNecrosisといいます. Apoptosisの場合厳かに自殺するのに対し, Necrosisの場合は悪いものを撒き散らしながら死んでいきます. つまり他人 (他の細胞) に多大なる迷惑をかけます. この教科書によるとNecrosisの性質を持つApoptosisがあるようですが, こちらの仕組みはまだあまりよくわかっていないようです.  

 

Apoptosisという現象は最初に線虫で発見され, このプログラムされた細胞死における遺伝子制御の解明に貢献したことによりイギリスのSydney BrennerとJohn E. Sulston, アメリカのH. Robert Horvitzが2002年にノーベル生理学・医学賞を受賞されました*1

 

Apoptosisはcaspasesを介して働きます. Apoptosisとして知られている経路は2つ存在し, 外因的なextrinsic pathwayと内因的なintrinsic pathwayが知られています. ちなみに他の形態の細胞死の経路が存在するかどうかはいまだわかっていないらしいです. 

 

extrinsic pathwayの発見には日本の米原 伸先生*2と長田 重一先生*3が重要な働き (具体的にはFASやFASL関連の発見) をされました. この経路はFas death receptorにkiller lymphocyteのFas ligandが結合することがきっかけで進行します(下図).

 

f:id:synonym3antonym:20150204221217p:plain

Fas ligandが結合した後, Fas death receptorのサイトゾル側にDISC (death-inducing signaling complex) が形成され, これにより開始caspaseであるcaspase-8が活性化され, このcaspase-8が実行caspaseを活性化し, Apoptosisが実行されます. ちなみにMBoC5thでは開始caspaseとしてcaspase-8とcaspase-10が挙げられていますが, MBoC6thではcaspase-8となっていました. 

 

intrinsic pathwayの発見には日本の辻元 賀英先生*4が重要な働きをされました. この経路ではミトコンドリアが大きな役割を果たしますが, なぜミトコンドリアがApoptosisのintrinsic pathwayにおいて重要な役割を果たしているのかはわかっていないようです. この疑問は細胞内共生説を知っているとなおさら不思議に感じると思います. この経路ではBAXやBAKによってミトコンドリアからcytochrome cが放出されると, このcytochrome cがApaf1 (apoptotic protease activating factor-1) と結合してApoptosomeという7量体を形成し, このApoptosomeの中心にあるCARDによって開始caspaseであるcaspase-9が活性化され, そしてあとはextrinsic pathway同様に実行caspaseを活性化してApoptosisが実行されます.  

 

ここで僕が一つ疑問に思ったこととしては, MBoC6thではBaxやBakの遺伝子領域にBH4ドメインが描かれていないのに, 章末に書かれている参考文献*5ではBH4ドメインが描かれていることです. 気になったので他の教科書も調べてみたところ, MBoC5thでもBH4ドメインが描かれておらず, Voet生化学でもBH4ドメインは描かれていませんでしたが, 図の出処として2000年のreview article*6が書かれていました. よっておそらくつい最近まではBH4ドメインがないものだと思われていたがここ1, 2年の研究により発見されたのだろうと考えました. 詳細を知る方がいたらご教授願いたいです. 

 

ちなみに他にもBH1からBH3ドメインまで存在し, BH1,2はBcl-2ファミリー相互の結合, チャネル形成に関与し, BH3は細胞死促進活性, Bcl-2ファミリー相互の結合に関与し, BH4は細胞死抑制活性に関与します. これらの内容はMBoC6thには載っていません.

 

他にも気になった話としてはMBoC5thではミトコンドリアからcytochrome cが放出されるときにBH123が機能すると書いてありましたが, MBoC6thではeffector Bcl2 family proteinになっていました. 具体的にはBAXやBAKなどが該当します. なので, もしも2014年の論文の図がまちがっているということであればBH1と2と3を持っているBAXやBAKなどは前の版でいうBH123と指しているものが同じであるということになりますが, 間違っていないとするならBH123ではなくBH1234に相当するものとなりますね. あとは, MBoC5thではBH3-only proteinはanti-apoptotic Bcl2 family proteinを阻害するのみでしたが, MBoC6thではそれとともにeffector Bcl2 family proteinsをaggregateする働きもすると書かれていました. BAXやBAKによるcytochrome cの放出の詳しいメカニズムは分かっていない, とMBoC6thには書かれていましたが, 2014年の論文では一つのモデルが提唱されていたので, 興味のある向きは一読されるとよいかもしれない. 

 

IAPs (inhibitors of apoptosis) はcaspaseの制御に関わります. 哺乳類においてIAPとanti-IAPの働きはあまりはっきりしていないらしいのですが, intrinstic pathwayではanti-IAPsであるSMAC/DiabloとOmiがIAPsであるXIAPを阻害することによってApoptosisを促進し, 活性化したXIAPは開始caspaseであるcaspase-9を阻害し, 結果としてApoptosisを阻害します. 

 

BIDはextrinsic pathwayとintrinsic pathwayをつなぐ役割をします. つまり, extrinsic pathwayにおけるcaspase-8により生成したtBIDはBAXやBAKの発現を促進してintrinsic pathwayを活性化させます. 

 

Apoptosisされた細胞は適切に食細胞によって食されなければいけないのですが, 冒頭のApoptosisの定義によりApoptosisを起こした細胞は正常な形態を保っています. それでは食細胞はどうやってApoptosisを起こした細胞と正常な細胞の違いを判断しているのでしょう?実は正常な細胞では内在化しているホスファチジルセリンが, Apoptosisを起こした細胞では外在化し, この外在化したホスファチジルセリンにMFG-E8とアネキシンIが結合し, これを食細胞がインテグリンを介して認識しています. このホスファチジルセリンが外在化するシグナルをeat me signalといいます. 実は正常な細胞でもいくらかホスファチジルセリンが外在化していますが, 正常な細胞はdon't eat me signalを出すことによって食作用を免れているのです. Apoptosisを起こした細胞がどうやってこのdon't eat me signalを不活化させているかはまだわかっていないそうです. 

 

以上読んでいて思った事を並べていきました. いろいろと調べた感じではまだまだこれから発展していく分野だと感じたので, 今後新しく世に出される論文のチェックは必須のようです. 

 

(追記: 2/10/2015)

Many lipophilic inhibitors of cytosolic signal transduction molecules are under development, including drugs that target mediators of apoptosis or inflammation*7.

 

(追記: 2/19/2015)

今年1/31に実業之日本社から出版された「nature科学 系譜の知 バイオ(生命科学)、医学、進化(古生物)」(竹内 薫氏著)においてapoptosisの話題が扱われていました. 購入したわけではないので詳細を読んだわけではありませんが, apoptosisのトピック以外にもいろいろと扱っているなぁという印象をうけたので, 興味がある人は読んでみるといいかもしれません. なお, このシリーズは他にも2種類あるようです. 

 

 

 

*1:今月の話題(2002年 ノーベル賞)

*2:米原研究室|京都大学大学院 生命科学研究科 高次遺伝情報学分野

*3:長田重一研究室|京都大学大学院医学研究科 医学専攻 分子生体統御学講座 医化学分野

*4:大阪大学大学院医学系研究科 遺伝医学講座・遺伝子学

*5:Peter E. Czabotar, et al., "Control of apoptosis by the BCL-2 protein family: implications for physiology and therapy", Nat. Rev. Mol. Cel. Bio., 15, 49-63, 2014. doi: 10.1038/nrm3722, ちなみにこの論文のp50左下に誤植が存在します (cytochr0omeとなっています).

*6:Michael O. Hengartner, "The biochemistry of apoptosis", nature, 407, 770, 2000. doi: 10.1038/35037710

*7:David E. Golan, et al., "Principle of Pharmacology: The Pathophysiologic Basis of Drug Therapy", 3rd revised international ed., Lippincott Williams & Wilkins, p12, 2011.