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Suis-je ce que mon passé a fait de moi ?

16S rRNA遺伝子の水平伝播

大学の電子ジャーナルを活用すると数多くの電子雑誌が読めることに気付いたので, 最近はいろいろと読みあさっています. もともと論文とかを読むのに高頻度で利用していましたが, 電子雑誌を読むという発想には至りませんでした.

化学と生物 2015年 02 月号 [雑誌]

化学と生物 2015年 02 月号 [雑誌]

 

数学や物理学が好きで, 毎月数学セミナーや数理科学などは購入していたのですが, なぜか自分の専門分野の雑誌は買ってなかったんですよね. 家族がNewtonを定期購読していて, もちろん僕も読んでいたので, その影響で数学や物理学の雑誌を買うことの心理的ハードルが低かったからかもしれません. ちなみに数学セミナーの今月号は小平先生特集でした. 

数学セミナー 2015年 03 月号 [雑誌]

数学セミナー 2015年 03 月号 [雑誌]

 

 

数理科学 2015年 03 月号 [雑誌]

数理科学 2015年 03 月号 [雑誌]

 

 

今日は最初に紹介した化学と生物の2015年2月号のある記事について. 

 

16S rRNAは, proteinの翻訳という重要な機能を持つリボソームのパーツなので分子進化速度が極めて遅いであろうことと, 水平伝播はしないであろうことを仮定して微生物の系統分類に利用されてきたのですが, 近年実は水平伝播をしているのではないかという事例が数多く報告されているようです. 僕も微生物学の講義で似たような話を聞いたのでなんとなくそういうものだと覚えてました. この記事によると, リボソーム成分の異種間和合性は従来考えられていたよりもはるかに高いそうです. さらに, rRNAオペロンを欠失させた大腸菌 Escherichia coli KT101株*1を用いた実験によると, その大腸菌の生育を相補した異種16S rRNAは, 配列は多種多様であるものの二次構造は壊さないものであったらしい. つまり, 人工的な環境においてですが, 点変異よりも水平伝播の方が許容されやすいことを示唆していると言えます. このあたりは"非常に興味深い"と書いてあるのでまぁつまりはまだ詳しいメカニズムなどは明らかにはなっていないということのようです. 

 

さらにこの記事によると, 水平伝播の遺伝学的なメカニズムはいまだ全く未解明だそうですが, 水平伝播を阻むような「壁」については報告されているようです*2. つまり, 16S rRNAのhelix 41がペリプラズム酵素RNaseIの特異的なインヒビターとなっており, 16S rRNAの配列が異種のものと置きかわると細胞内RNAがRNaseIにより切断されるそうです. 換言すると, 水平伝播により生存に不利な状況も生じます. 

 

とても興味深いことを示唆しているように感じたので忘備録を残した次第です. しかしこういう事実が出てくると微生物の系統分類についていろいろと思うことはありますね.

*1:T. Asai, et al., "An Escherichia coli strain with all chromosomal rRNA operons inactivated: Complete exchange of rRNA genes between bacteria", Proc Natl Acad Sci USA, 96, 1971-1976, 1999.

*2:K. Kitahara, et al., "Specific inhibition of bacterial RNase T2 by helix 41 of 16S ribosomal RNA", Nature Commun., 2, 549, 2011.